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福島地方裁判所郡山支部 昭和40年(ワ)182号 判決

主文

1  参加人と原告との間において原告が別紙目録記載(一)の土地につき賃借権を有しないことを確認する。

2  被告は参加人に対し別紙目録記載(二)の建物を収去してその敷地である同目録記載(一)の土地の明渡しをせよ。

3  原告の請求を棄却する。

4  訴訟費用中、参加により生じたものは原告および被告の負担とし、その余のものは原告の負担とする。

事実

第一  申立

(本訴)

一  原告

1 被告は原告に対し別紙目録記載(三)の建物を明け渡し、かつ昭和四〇年一〇月一二日から右明渡しずみまで一箇月金一、五〇〇円の割合による金員の支払をせよ。

2 被告は原告に対し別紙目録記載(二)の建物を収去してその敷地である同目録記載(一)の土地の明渡しをせよ。

3 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言を求める。

二  被告

1 主文第三項と同旨

2 訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

(参加訴訟)

一  参加人

1 主文第一、二項と同旨

2 訴訟費用は原告および被告の負担とする。

との判決および土地明渡しを求める部分につき仮執行の宣言を求める。

二  原告

請求棄却の判決を求める。

三  被告

本案前の申立として参加人の本件当事者参加の申立を却下する旨の裁判を求め、本案につき

1 参加人の被告に対する請求を棄却する。

2 訴訟費用は参加人の負担とする。

との判決を求める。

第二  本訴請求の原因

一  原告は、郡山市燧田九六番地所在別紙目録添附図面(二)記載の木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅、床面積一階二四・〇九平方メートル、二階一一・五八平方メートル(以下「本件建物」という。)をもつて自己所有の右同所所在家屋番号燧田一二四番ノ二、右同構造、同種類、同床面積の建物としていたところ、被告との間にその所有権の帰属をめぐつて紛争が生じ、裁判の結果、原告所有の右建物は、別紙目録記載(三)の建物部分(以下「本件甲建物部分」という。)に限極され、その余の部分は、被告所有の同目録記載(二)の建物(以下「本件乙建物部分」という。)である旨確定した。

二  ところで、本件乙建物部分は、被告において資金を投じて建築したものであつたが、これにつき原告が所有権を有しているとしていたのは、つぎの事情によるものである。すなわち、原告は、被告の要請により被告に対し原告所有の別紙目録記載(四)の建物のうち一階西北隅に位していた奥座敷部分五坪余(以下「本件旧建物部分」という。)を改造のうえ権利金三〇〇、〇〇〇円を徴して賃貸することになりかけたところ、被告は、右賃借部分を使用してバーを経営する計画を樹てていたため、交渉の結果、本件旧建物部分の改造は、原告においてこれをするよりむしろ被告において自由にこれをするのが適当であるということになつた。ところが、たまたま被告は、当時右権利金を一時に支払うことができない事情にあつたため、原告に対し右権利金の差入れにかえ本件旧建物部分を自己の費用でもつてバーに改築したうえこれを原告に無償譲渡し原告からこれを賃借することにしてもらいたい旨申し入れ、原告は、これを承諾した。

三  そして、被告は、右約定に基づき本件旧建物部分の改築として本件乙建物部分を建築し、これに伴い原告は、昭和三〇年九月中被告に対し本件乙建物部分および本件甲建物部分からなる本件建物を期間三年、賃料一箇月金六、〇〇〇円の約定で賃貸した。

四  ところで、原告は、昭和三五年九月ころ被告に対し前記家賃の増額を申し入れたところ、被告は、原告から賃借したのは本件建物ではなく、その敷地であり、本件乙建物部分等は自己の所有に属している旨主張し抗争するに至つた。

五  さて、被告のこのような言動は、たとえ後日判決でもつて本件乙建物部分が被告の所有に属する旨確定されるに至つたとしても、賃貸人である原告に対する著しい背信行為であるということは動かし難い真実であつて、原告としてはこのような被告とはもはや従来の賃貸借関係を継続することができず、昭和四〇年一〇月一〇日附、翌一一日到達の書面をもつて被告に対し被告の右背信行為を理由に本件建物についての賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

六  別紙目録記載(一)の土地部分(以下「本件土地」という。)を含む土地は参加人の所有であるところ、同目録記載(四)の建物を所有する原告は、右土地を建物所有の目的で賃借した。

七  被告は、本件乙建物部分を所有し、その敷地として本件土地を占有使用している。

八  よつて、原告は、被告に対し本件建物賃貸借契約解除に伴う現状恢復義務の履行として原告所有の本件甲建物部分の明渡しおよび右現状恢復義務不履行に基づく損害賠償として賃貸借契約解除の翌日である昭和四〇年一〇月一二日から右明渡しずみまで本件甲建物部分の賃料相当額に該る一箇月金一、五〇〇円の割合による金員の支払を求めるとともに、原告が本件土地につき有する賃借権を保全するため、賃貸人である参加人の被告に対する本件土地所有権に基づく明渡請求権を代位行使し、被告に対し本件乙建物部分収去による本件土地の明渡しを求める。

第三  答弁

請求原因第一項の事実は認める。

同第二項の事実中、被告が自己の資金を投じて本件乙建物部分を建築した点は認めるが、その余の事実は否認する。

請求原因第三項の事実中、被告が本件旧建物部分の改築として本件乙建物部分を建築したことは認めるが、その余の事実は否認する。

請求原因第四項の事実中、原告が家賃の増額請求をしたとの点を否認し、その余の事実は認める。

請求原因第五項の事実中、原告が被告に対しその主張のとおりの契約解除の意思表示をしたことは認めるが、その余の点は否認する。

請求原因第六、七項の事実は認める。

同第八項は争う。

第四  抗弁

一  被告は、昭和三〇年九月中原告から本件土地を建物所有の目的で権利金三〇〇、〇〇〇円(昭和三〇年一〇月以降毎月金五、〇〇〇円づつ分割支払)、賃料一箇月金一、〇〇〇円の約定で期間の定めなく転借した。なお、本件土地の所有者賃貸人である参加人は、昭和三五年中原被告間の右転貸借の事実を知るに至つたが、その後本件当事者参加申立に至るまでの九年余の間これにつき格別異議の申立もせず、右転貸借を暗黙のうちに承諾していたものである。

二  このように、被告に対し自ら本件土地を転貸するに至つた原告としては、その有する賃借権を保全するため参加人の被告に対する土地所有権に基づく明渡請求権を代位行使することはもはや許されない。

第五  抗弁に対する答弁

抗弁第一項の事実は否認する。

同第二項は争う。

第六  参加の理由および請求の原因

一  本件土地を含む土地は参加人の所有であるところ、参加人は、これを原告に対し建物所有の目的で賃貸した。

二  原告は、参加人の承諾がないのに昭和三〇年九月中被告に対し本件土地を建物所有の目的で転貸した。

三  被告は、本件乙建物部分を建築所有し、その敷地として本件土地を占有使用している。

四  参加人は、原被告間の本件土地転貸借を承諾できないので、かねて原告に対し被告による本件土地の占有使用を直ちに中止させるよう再三要求していたが、原告においてこれを実現しないので、昭和四四年六月一三日附、同月一七日到達の書面をもつて原告に対し本件土地の無断転貸を理由に該土地部分の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

五  ところで、原告は、被告に対する本件土地転貸を否定し、参加人のした本件土地賃貸借契約解除の効力を争い、本件土地につき依然として賃借権を有する旨主張しているので、原告との間において原告が本件土地につき賃借権を有しないことの確認を求め、また被告に対しては本件土地所有権に基づき本件乙建物部分収去による本件土地の明渡しを求めるため民事訴訟法第七一条前段により参加する。

第七  原告の答弁

請求原因第一項の事実は認める。

同第二項の事実は否認する。

同第三項の事実は認める。

同第四項の事実中、参加人がその主張のとおりの契約解除の意思表示をしたことは認めるが、その余の点は否認する。

請求原因第五項の事実中、原告が参加人主張のとおりの主張をしていることは認めるが、その余の点は争う。

第八  被告の本案前の申立の理由

参加人の本件当事者参加の申立は、本件土地の所有権に基づき被告に対し本件乙建物部分収去による本件土地の明渡しを求めるものであるところ、原告は、右参加の申立に先き立ちすでに被告に対し本件土地の賃借人として賃貸人である参加人に対し有している賃借権を保全することを理由に参加人の本件土地所有権に基づく明渡請求権を代位行使する旨主張し、参加人の被告に対する前記請求と同様の請求をする本訴を提起している。そうすると、参加人の本件当事者参加の申立は、すでに原告が債権者の代位により行使している権利と同一の権利を行使しようとするものであり、また右申立は、原告の本訴請求と訴訟物を同一にし、いわゆる二重起訴に該当するものでもあり、いずれにしても不適法な申立として直ちに却下されなければならない。

第九  被告の本案の答弁

請求原因第一項の事実は認める。

同第二項の事実は、原被告間の本件土地転貸借につき参加人の承諾がないとの点を否認し、その余の事実は認める。

請求原因第三項の事実は認める。

同第四項の事実中、参加人が原告に対し被告の本件土地占有使用を中止させるよう要求していたとの点を否認し、その余の事実は知らない。

請求原因第五項は争う。

第一〇  被告の抗弁

一  原告は、かねて参加人から本件土地を含む土地を建物所有の目的で賃借していたところ、被告は、本訴抗弁第一項(第四抗弁の一)において述べたように、原告から本件土地を転借し、参加人は、昭和三五年中右転貸借の事実を知るに至つたが、その後本件当事者参加の申立をするに至るまでの九年余の間これにつき格別異議の申立もせず、暗黙のうちに右転貸借を承諾していたものである。

二  かりに、原被告間の本件土地転貸借につき参加人の暗黙の承諾があつたとまでは認められないとしても、参加人は、とにもかくにもすでに述べたように九年余の間被告の本件土地使用につき異議を申し述べず、被告をして本件土地上に本件乙建物部分を所有し、これを使用して社会生活を維持継続するに任せておきながら、今日に至つて突如本件土地の占有使用が無権原のそれであるとしてその明渡しを求めるのは真義則にももとり権利の濫用に該当し到底許されないものである。

三  かりに、右主張も容れられないとすれば、被告は、借地法第四条第二項の類似適用により参加人において本件乙建物部分を時価で買い取ることを請求する。

第一一  被告の抗弁に対する答弁

抗弁第一項の事実中、原告が参加人から本件土地を含む土地を建物所有の目的で賃借し、被告が原告から本件土地を本件乙建物部分所有の目的で転借したことは認めるが、右転貸借のその他の条件は知らないし、参加人が右転貸借を承諾していたとの点は否認する。

抗弁第二項の事実は否認する。

抗弁第三項は争う。

証拠(省略)

理由

一  まず、参加人の本件当事者参加の申立の許否につき検討すると、参加人の右申立に関する主張自体よりみて参加人が民事訴訟法第七一条前段にいわゆる訴訟の目的が自己の権利であることを主張する第三者に該当することはあまりにも明白であり、参加人の右申立がその要件において欠けるところのないことは明らかである。被告は、本件当事者参加の申立に先き立ち、すでに原告が本件土地の賃借人として賃貸人である参加人の被告に対する本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を代位行使しているので、参加人としてはもはや自ら被告に対し本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を行使することが許されなくなつている旨主張するが、参加人は、原告との間の本件土地賃貸借契約を解除したこと、つまり、原告は、本件土地の賃借権者としての地位を喪失し、参加人の本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を代位行使し得ない立場に置かれるに至つていることを主張したうえ本件土地所有権に基づき被告に対し本件土地の明渡を求めているものである。

そして、このように参加人において自己の債権者として自己の権利を代位行使しているものが、実は自己の債権者でなく、したがつて自己の権利を代位行使できない旨主張するときは、すでに自己の権利を代位行使しているものがあるとの一事をもつて直ちに訴訟上自ら自己の右権利を行使することが許されないということはできず、なお訴訟上自ら右権利を行使して差し支えないものと解するのが相当である。なお、原告が本件土地につき真に賃借権を有するか否かの点は実体関係上の問題にすぎず、したがつて、この点は参加申立の許否を定める場合において斟酌しなければならないことではない。

二  つぎに、被告は、参加人の本件当事者参加の申立は、原告の本訴請求と訴訟物を同一にし、重複起訴に該当する旨主張するので検討すると、原告が本件のように被告に対し本件土地の賃借権者として本件土地の賃貸人である参加人の本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を代位行使した後において、参加人が被告に対し、原告において本件土地の賃借人として適法に参加人の本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を代位行使できる地位にあることを容認したうえさらに原告と同一の本件土地明渡請求をするため本件当事者参加の申立におよんだというのであれば、右参加の申立は民事訴訟法第二三一条において禁止する再訴に該当するといつて差し支えないであらう。しかしながら、参加人において本件当事者参加申立の場合のように原告の本件土地についての賃借権を否定し、あるいは、原告の本件土地についての賃借権が否定されないとしても、被告の本件土地の占有使用が、例えば原告自身の占有使用と目される等の理由で、いずれにしても被告に対し参加人の本件土地所有権に基づく本件土地明渡請求権を代位行使することが許されないような特段の事情がある場合には、原告の被告に対する本訴請求が債権者代位権行使のための前提要件を欠くとの理由のもとに参加人の被告に対する本件土地明渡請求権の存否につき判断されるまでもなく直ちに排斥されるようなことも十分考え得ることである。そうすると、参加人としては原告の本訴請求にかかわらず、なお本件当事者参加の申立をする別個独立の利益を有するものであり、ひいては原告の本訴請求と参加人の本件当事者参加の請求とはそれぞれ別個の紛争と解することが十分可能であり、したがつて、被告の前記申立は採用しない。

三  そこで、本訴請求のうち本件土地明渡請求部分および参加人の請求について判断すると、まず、本件土地を含む土地が参加人の所有であり、かねて原告がこれを参加人から建物所有の目的で賃借していたことおよび被告が本件乙建物部分を所有しその敷地として本件土地を占有していることは当事者間に争いがない。

四  ところで、被告が原告から本件土地を本件乙建物部分所有の目的で転借したことは、参加人と被告との間においては争いがないが、原告においてこれを否定するので、合一確定のため以下この点について検討すると、各成立に争いのない甲第七号証の三、第八、九、一〇号証(各一部)、乙第三号証(一部)、第五号証、第七号証、第九、一〇号証(各一部)、第一一号証の一、二によれば、つぎのとおりの事実が認められる。

被告は、昭和三〇年九月ころ郡山市虎丸町所在の建物を賃借したうえこれをバーに改造し、バー営業を営むことを計画し、右改造工事につき相談するため材木店を経営していた三浦章方に赴き右計画を申し述べたところ、たまたま同人は、友人である原告が料理店経営用の建物としてかねて第三者に賃貸している別紙目録記載(四)の建物のうち、以前女中部屋として使用されていた一階北西隅に位する本件旧建物部分がここ数年来空室となり使用されていないことを知つていたので、被告に対しバー営業を営むには本件旧建物部分の存在するところが立地条件からみてもより適当であるとして、これを原告から賃借するようすゝめるとともに、原告に対してもこれを被告に対し賃貸し、利益を収めることをすゝめた。

こうして、被告は、右三浦の紹介のもとに父である根本善治らとともに原告とバー営業場所の貸借につき交渉を始めるに至つた。ところで、被告は、原告と右交渉を始めるに際しては、原告から本件旧建物部分を賃借し、これをバーに改造したうえ使用しようと考えていたのであるが、原告と交渉を始めてみると本件旧建物部分があまりにも古いものであつたところから、その敷地部分も原告の所有であると考え、原告に対し本件旧建物部分を全部取り毀したうえその跡地に自己の費用をもつてバー向きの建物を新築したい旨申し入れ承諾を求めたところ、原告は、被告において自由に資金を投じその好みに応じた建物を建築し、これを使用してバー営業を営むことを承諾するに至り、これに伴い原被告間において右バー営業場所の賃貸借期間を五年、賃料を一箇月金一、〇〇〇円、権利金を金三〇〇、〇〇〇円とし、なお右権利金はこれを同年一〇月以降毎月金五、〇〇〇円づつに分割し、賃料とともに支払う旨の合意が成立した。

そして、被告は、右合意に基づき直ちに本件旧建物部分を取り毀わし、数十万円を投じその跡地に右取毀わしにより出現した別紙目録記載(四)の建物の一階西北隅空洞部分、換言すれば、本件甲建物部分に接しこれを利用上一体に取り込むようにして本件乙建物部分を建築した。

以上の事実が認められる。

そして、右認定の事実に当事者間に争いのない本件乙建物部分が被告の所有である事実をあわせ考えると、原告は、昭和三〇年九月中被告に対し本件乙建物部分ではなく、その敷地部分である本件土地を期間五年、賃料一箇月金一、〇〇〇円、権利金三〇〇、〇〇〇円(同年一〇月から毎月金五、〇〇〇円づつ分割支払)の約定で賃貸したものと認めざるを得ない。

前記甲第八、九、一〇号証、乙第三号証、第九、一〇号証の各記載および証人三浦章の証言ならびに原告本人尋問(第一回)の結果中、右認定に反する趣旨の部分はそのまま直ちに信を措き難く、また、成立に争いのない甲六号証中には、原告が昭和三〇年一〇月以降被告から一箇月金六、〇〇〇円の家賃を領収していた旨の記載があるが、前記乙第五号証、第九、一〇号証によれば、右家賃の記載は表向きそう記載されたにすぎないことが窺われるから、これをもつて直ちに原被告間の賃貸借の目的物件が本件乙建物部分であつたことを肯定する資料とはし難い。

五  ところで、賃貸借において賃貸人は、目的物件引渡後もなお賃借人の目的物件の使用収益につき積極的に協力する義務があるから、もし第三者において賃借人の目的物件の使用収益を妨害しているときは、賃借人は、賃貸人に対し右妨害を排除すべきことを請求する権利があり、また賃貸人は、これを排除すべき義務のあることはいうまでもないことであるが、すでに認定したところによれば、本件の場合原告は、被告に対し自ら本件土地を転貸したものであるから、被告による本件土地の占有使用は一面原告によるそれと同視することができ、原告においてその使用収益が妨げられているということはできない。したがつて、原告は、本件土地の賃貸人である参加人に対し被告による本件土地の占有使用をもつて原告の賃借権を妨害するものとしてその排除を請求する権利はなく、また参加人は、原告のためこれをなす義務を負うものではなく、結局原告は、参加人に属する権利を代位行使して被告に対し本件土地の明渡を求めることは許されないものといわなければならない。

そうすると、原告の被告に対する本件乙建物部分収去による本件土地明渡請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、すでにこの点において理由がないことになる。

六  つぎに、前認定の原被告間の本件土地転貸借につき、被告は、参加人の黙示の承諾があつた旨を主張するのに対し、参加人は、無断転貸を主張するので、以下この点について検討すると、前記乙第七号証、第一〇号証および各成立に争いのない甲第二号証、第七号証の三、乙第一一号証の一、二に証人根本善治の証言(一部)および原告(第二回)、参加人各本人尋問の結果を綜合すれば、つぎのとおりの事実が認められる。

被告は、昭和三五年九月ころ原告からの賃料値上要求に端を発し原告との間に本件乙建物部分の所有権の帰属につき争いをすることになつたが、これに伴いその敷地である本件土地につき調査したところ、従来本件土地が原告の所有に属するものと考えていたのは誤りで、参加人の先代橋本藤左衛門の所有であることを知るに至つた。

そこで、被告は、同年一一月一八日本件乙建物部分につき自己のため保存登記をし、昭和三六年一月中原告および右藤左衛門を相手方として郡山簡易裁判所に対し、原告において本件乙建物部分が被告の所有であることを認め、被告に対しその敷地部分である本件土地を相当賃料で転貸すること、藤左衛門において右転貸借を承諾することを申立内容とする調停の申立をしたが、同年二月ころの該調停期日において原告は、被告の右要求には勿論応じないし、また当時老令でとかく病気勝ちの藤左衛門にかわり右調停期日に出頭していた同人の使用人は、被告の本件土地転借につき承諾を与えようとせず、結局右調停は間もなく不調となつて終了した。

そして、参加人は、昭和三九年一〇月右藤左衛門の死亡に伴い相続により本件土地を含む土地の所有権を取得するに至つたが、たまたまそのころ使用人から、本件旧建物部分が取り毀わされ、その跡地に参加人方の承諾なしに本件乙建物部分が建築されたことにつき原告方に苦情の申入れをした際、原告より本件乙建物部分の所有権の帰属をめぐつて目下被告との間に裁判でもつて争つているさなかで、原告としては被告に対し原告所有の本件建物を賃貸しただけであるのに、被告においては本件乙建物部分は被告の所有であつて原告から賃借したのはその敷地部分である旨主張し抗争しているとの説明を受けているとの報告を受けた。こうして、参加人は、原告が被告主張のように被告に対し本件土地を転貸したのであれば原告との間の本件土地等賃貸借契約を解除し、また、原告がその主張のように被告に対し自己所有の本件建物を賃貸したのであるならば、地代の増額を求めるだけで建物新築については黙認しようとの腹を決め、原被告間の裁判の結果を待つことにした。ところが、参加人は、その後被告の来訪を受け、被告から、本件土地を原告の所有と信じ賃借したところ、後になつて意外にもそれが参加人方の所有であることを知つたので、これを被告において使用することを許諾してもらいたいとの申込みを受けたが、これを拒絶した。

以上の事実が認められるのであつて、証人根本善治の証言中右認定に反する趣旨の部分はそのまま直ちに信を措き難い。

さて、右認定の事実によれば、参加人の側においては、被告において本件土地を転借したと主張するのを知つた昭和三六年二月ころ直ちに右転借につき承諾できない旨の意思表示をし、その後も一貫してこの立場を変えることがなかつたと認められる。もつとも、右認定の事実によれば、参加人側においては、昭和三六年二月ころ被告に対し本件土地の転借につき承諾できない旨の意思表示をして以来相当期間にわたり被告に対し本件土地の使用につき格別苦情の申立てをしていないことが窺われるが、それは、原告において被告に対し本件土地を転貸したことを否定し本件土地を転借したと主張する被告と裁判で争つていたため、右裁判の結果を待つて処置しようと考えていたことに原因があるものと認められるから、参加人の側の右態度をもつて直ちに原被告間の本件土地転貸借を暗黙のうちに承認していたものということはできない。そして、他に右認定を左右し参加人において原被告間の本件土地転貸借につき承諾を与えていたことを肯定するに足りる証拠はない。

七  そうとすれば、原被告間の本件土地転貸借は賃貸人である参加人の承諾のない無断転貸借であるといわなければならないから、参加人と原告との間の本件土地賃貸借契約解除に基づく原被告間の本件土地転貸借契約終了の問題について言及するまでもなく、被告は、本件土地についての転借権をもつて参加人に対抗することができず、また、参加人は、原告との間の本件土地賃貸借契約を解除することができるところ、参加人において原告に対し昭和四四年六月一七日到達の書面をもつて右認定の無断転貸を理由に右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは原告において認めて争わないところであるから、参加人と原告との間の本件土地賃貸借契約は、右同日をもつて解除となり終了したことになる。

なお、原告は、被告に対し本件土地を転貸したことを争い、特に本件乙建物部分が被告の所有と裁判上確定されそうになると、本件乙建物部分収去による本件土地明渡を請求する本訴を提起し、被告による本件土地の占有使用を極力排除しようと努めていること本件口頭弁論の全趣旨から明らかに肯認し得るところであるが、原告において被告に対し本件土地を転貸したものと認定される以上、原告のしている右努力をもつて直ちに賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるときに該当するものとはいうことができず他に右のような特段の事情があることを肯定するに足りる資料はない。

八  そこで進んで、参加人の被告に対する本件土地明渡請求が権利の濫用に該当するとの被告の主張について検討すると、参加人の側においては昭和三六年二月ころ被告から本件土地転借につき承諾を求められると直ちにこれを拒絶し、その後被告から重ねて本件土地の使用につき許諾を求められた際にも重ねてこれを拒絶していたことすでに認定したとおりである。もつとも、右両拒絶の間の相当期間参加人の側においては被告に対しその本件土地使用につき積極的に苦情を申し述べていないが、それは、原告において被告に対し本件土地を転貸したことを否定し裁判上争つていたため、右裁判の帰趨を見守つていたことに基づくものであることすでに認定したところであるから、参加人の側の右態度も無理からぬことであり、これを捉えて直ちに参加人を批難することもできないし、他方、被告の側においても本件土地使用に関しては、参加人の側からは格別苦情を申し述べられることがなかつたとしても、原告からは裁判をもつて長年争われていたのであるから、本件土地の使用につき終始何等不安を抱くことなく安心していたわけのものでもないことが推認に難くない。

そうとすれば、参加人においてたとえ被告が本件土地の占有使用を始めてから相当長期間経過した後において本件当事者参加の申立をし、被告に対し本件土地の明渡しを求めたからとて、参加人の右請求をもつて被告主張のように権利の濫用に該るということはできない。

九  また、被告は、借地法第四条第二項の規定の類推適用により参加人に対し本件乙建物部分を時価で買い取ることを請求しているが、本件のごとき事案につき右規定を類推適用する余地のないことについては改めて説明するまでもないであろう。もつとも、同法第一〇条は、第三者が賃借権の目的である土地の上に存する建物を取得し、これに伴い右建物の敷地を賃借人から転借するようになつた場合において、賃貸人が右敷地の転貸を承諾しないときは賃貸人に対し時価をもつて右建物を買い取ることを請求できる旨規定しているが、右規定は、賃借権の目的である土地の上に存する建物を取得する者は、賃借権の目的である土地の賃借権を譲り受け、もしくは転借したものとされて賃貸人から右建物を収去することを強いられる運命に陥ることに着目し、このような不経済を排し右建物の存続をはかることを直接の目的として設けられたものであるから、この趣旨からみて、同条は、本件乙建物部分のように賃借権の目的である土地を転借した後に建築した建物の場合には類推適用すべきでないと解するのが相当である。

一〇  最後に、原告の被告に対する本件甲建物部分の明渡請求部分について判断すると、まず、原告は、被告に対し本件甲建物部分を含む本件建物を賃貸した旨主張するのに対し、被告はこれを否定するので、以下この点について検討する。

被告が本件建物のうち本件乙建物部分を賃借したことはなく、その敷地部分を賃(転)借したものであることはすでに認定したとおりである。そして、この事実にこれまたすでに認定した本件建物のうち残余の本件甲建物部分が別紙目録記載(四)の建物の一階西北隅空洞部分からなり、本件乙建物部分の利用上一体に取り込まれるような状態になつているにすぎないことをあわせ考えると、本件甲建物部分は、本件乙建物部分と一体をなすというより、むしろ別紙目録記載(四)の建物の一部をなすものであり、したがつて、原告は、被告に対し本件乙建物所有の目的で本件土地を転貸したことに伴い、本件乙建物部分の利用上附随的に本件甲建物部分を通路等として使用することを事実上許容したにすぎず、これを賃貸したものということはできないであろう。そして、他に原告において被告に対し本件甲建物部分を賃貸したとの事実を肯定するに足りる証拠はない。

そうすると、原告の被告に対する本件甲建物部分明渡請求も、その前提を欠くものとしてその余の点について判断を加えるまでもなく、すでにこの点において理由がない。

一一  以上の次第で、原告に対し主文第一項記載のとおり賃借権の不存在確認を、また被告に対し同第二項記載のとおり本件土地の明渡しを求める参加人の各請求はいずれも理由があるものとしてこれを認容しなければならないが、原告の請求は理由のないものとして棄却を免れず、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条、第九四条を適用し、なお参加人の被告に対する本件土地明渡請求部分につき仮執行宣言を附するのは事案の性質上適当と認められないから、右仮執行宣言の申立を却下することとして主文のとおり判決する。

目録

(一)

郡山市燧田九六番ロ

一 宅地三五七・〇二平方メートルのうち、西北隅二〇・二二平方メートル(ただし、添付図面(一)においてイ、ロ、ハ、ニ、ホの各点を順次直線で結んだ範囲)

(二)

郡山市字燧田九六番地所在

家屋番号燧田一〇四番ノ二

一 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅 床面積一階一七・七三平方メートル 二階一一・五八平方メートル(ただし、添附図面(二)において平面図のド、ト、ロ、ハ、ニ、ホ、チ、トの各点を順次直線で結んだ範囲を平面とし、正面図の五、六、七、八、五の各分点を順次直線で結んだ範囲を立面とする甲部分を除くその余の乙部分)

(三)

郡山市字燧田九六番地所在

家屋番号燧田一二四番ノ二

一 木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗兼居住 床面積一階二四・〇九平方メートル 二階一一・五八メートルのうち階下南側約四分の一部分(たゞし、添付図面における前記甲部分)

(四)

郡山市字燧田九六番地所在

家屋番号二一七番

一 木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅一棟 床面積一階一九三・三八平方メートル(五八坪五合)二階一四六・二八平方メートル(四四坪二合五勺)

(一)

〈省略〉

(二)

〈省略〉

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